ACMのユーザーインターフェースの国際会議 UIST の開催地は北米の大都市かリゾートエリアが選ばれており、 UI研究者に参加への強いモチベーションを与えている。今年の UIST2001 は、フロリダ州はオーランドの Walt Disney Worldの敷地内にあるホテルで行われた。本来ならば強烈なモチベーションとなる (実際、投稿論文は多かったらしい)のだが、テロと炭疽菌の影響はフロリダに大きな陰を落しており、一段落しつつあるとはいえやはり人の集まりは例年よりかは少ないようだった。
今年のUISTでは新しい試みとして、UI design contestというイベントが行われた。与えられた課題を解決するインターフェースをデザインし、その出来を競うというものである。今年の課題は、「盤面の上の五つの駒を操作し、コンピューターが操作する駒や障害物を避けてゴールラインに到達させる」という、ゲーム形式の問題が課せられた。賞金総額$2500、また学生参加者はUISTの参加費が無料になるという特典もあり、筆者なぞは参加登録受付初日に朝一番で参加申し込みを送った。
コンテストは会期の初日、レセプションの前に行われた。コンテストには全部で8チームの参加があった。まずは予選を行い、上位3チームが決勝戦に進める。ここではまず8チームの内訳を紹介しよう。
今回の課題は五つのオブジェクトを同時に操作するインターフェースが求められているが、これを操作する人数は規定には盛り込まれていない。その為、一人で操作するためのインターフェースと複数人で操作するものとの、二種類のデザインが考えられる。参加8チームのうち、一人用のインターフェースが5チームで、五人用のインターフェースが3チームという構成だった。筆者は以前に開発した多点入力デバイスを使った一人用インターフェースで参加した (チーム名“all-your-mouse-are-belong-to-us”)。他に、ブラウン大の五十嵐氏がストロークベースのもの(“Teddy”)、一つのマウスで操作するものが1チーム、音声入力ベースのものが2チームあった。五人用のインターフェースは、古のATARIマシンの8方向ジョイスティックを5本使うもの(“37337 2600 Haxorz”)、 USB接続のアナログジョイスティックを5本使うもの(“PARC”)、5台のノートPCを使うもの(“Manzgrove”)、と多彩なデザインが集まった。
予選は三種の盤面の上でゲームをプレイし、合計得点で競われた。その結果、上位3チームは五十嵐氏の“Teddy”,“PARC”,“Manzgrove”となった。筆者は4位で惜敗、となるところだったのだが、一人用インターフェースと五人用インターフェースそれぞれ2チームづつで決勝戦を行おうという事になり、決勝戦に残れる事になった。その後行われた決勝戦では、“Manzgrove”が1位、以下“Teddy”“PARC” そして筆者のシステム、という順番になり、“Manzgrove”が1st prize、“Teddy”が2nd prizeを獲得した。また、“Teddy”はさらに best single UI prize、筆者が best student UI prizeをそれぞれ受賞した。日本からコンパクトPCと液晶ディスプレイを大変な思いをして担いでいった甲斐もあったというものだ。 (賞金の$200はホテル代の支払いですぐに消えてしまったのだが…)
本年の口頭発表は、フルペーパーの発表が21件、Technoteの発表が7件あった。筆者が面白いと思った発表を簡単に紹介する。
Baudischらの“Focus Plus Context Displays”は、液晶プロジェクターの出力が写し出されたパネルの一部を欠き、液晶ディスプレイを設置する事で部分的に高解像度を得るというものである。日常、画面が狭くて不便な思いをする事も多く、環境さえ許せばすぐにでも設置したい。
Dietzらの“Real-Time Audio Buffering for Telephone Applications”は、電話にバッファを設け、使用者が相手の話を聴けない状態にある間に、バッファに音声を記録し、使用者が再び聴けるようになったときにバッファ内の音声を短縮して再生する、というものである。例えば受話器を持ち変える時や、使用者が一時的に別の用事〜渡された書類に判を押すなど〜をしている時などに威力を発揮する。これもまた、今すぐにでも欲しい機能だ。現在の実装では受話器の耳が当たる部分にセンサーを設け、耳が離れた時に録音を開始し、再び接近した時にバッファの内容を短縮して再生する仕組となっている。
Greenbergらの“Phidgets”は、物理的なユーザーインターフェースを構築するための基本的な部品群(Phidget)についての研究である。ステッピングモータ・電球等の出力部品や、センサー・ボタン等の入力部品を提供している。これら物理的部品に対応するソフトウェアはVisual Basicの部品として用意されており、画面上のオブジェクトを結合していく事で制御ソフトウェアも簡単に構築する事ができるとしている。ビデオでは大学の講義で学生らが製作した作品の紹介がなされ、コンピューター制御された物理的なインターフェースが手軽に作れる事をアピールしていた。
日本からは、国立情報学研究所の細部博史氏が“ Modular Geometric Constraint Solver for User Interface Applications”という題で制約解消系の、五十嵐健夫氏が “Voice as Sound: Using Non-verbal Voice Input for Interactive Control”(technote)と “A Suggestive Interface for 3D Drawing”の二件をそれぞれ発表された。
その他にも興味深い発表はいくつかあったがそれらについてはプロシーディングスをあたっていただくとして、ここでは口頭発表の様子を報告しよう。UISTは他のユーザーインターフェース系の学会と比べて、聴衆を楽しませようという趣向の発表が多いように感じられる。本年も、デモやビデオ等でユーモアをふんだんに交えたものが多かった。 Baudischの“Focus Plus Context Displays”ではデモビデオの中で仕事の合間にゲームに興じる姿 (あるいは逆か)を演じていたり、Dietzらの“Real-Time Audio Buffering for Telephone Applications” では研究概要を電話越しに読み上げるという内容がそのままその機能のデモとなっており、喝采を受けていた。また、やはりDietzらの“DiamondTouch”ではデモビデオの中で、デバイスの上にコーヒーをこぼしたりライターオイルをまいて火をつけるといった、インフォマーシャルさながらの耐久テストを見せ、おおいにウケていた。
デモ発表では会場の一室に、様々なインターフェースが実際に体験できる状態で展示され、皆新しい体験に興じていた。中には子供連れで訪れている人々もおり、部屋はすぐに満員状態になった。それぞれのデモの内容を報告したいところだが、筆者も飛び入りでUI design contestで使用したシステムのデモを披露したので、他のデモを体験する余裕はなかった。
日本からは久保尚子・城一裕の両氏による、“Teething ring Sound Instrument” という、赤ちゃん用のおしゃぶり型の楽器インターフェースのデモがあった。おしゃぶりを吸う力がMIDI信号に変換され、接続されたコンピューターから音を出力するようになっており、 0歳からでも音を鳴らして遊べる。二人とも、デモ会場で皆がおしゃぶりを加えて試してくれるかどうか不安に思っておられたが、 UISTの参加者は大変ノリが良い事は御存知なかったらしい。会場ではその道の権威とも言うべき研究者達がおしゃぶりをくわえて興じている姿が見られた。後日談として、彼等に是非ともWISSに参加するようもちかけ、WISSでもデモ発表がなされたのだが、やはり大人気となり、多くの研究者がおしゃぶりに興じていた事をつけ加えておく。